アラセブンティ? 病気のデパートってか

病気のデパートや

オイラは2歳の頃に原因不明の大病を患った。両親はもう亡くなっているから、病名は知らない。右目が恐ろしく腫れて日に日に元気がなくなり、ついにはミルクも飲めなくなった。ぐったりする乳幼児をおぶりながら、母親は小さな町医者から大学病院まで、あちこち病を訪ねたが一向に病状は回復せず、“この子はもう長くない”と、一時は存命を諦めたという。

そんなある日、オイラをおぶりながら電車に乗った母親に、同年代の女の人が声をかけてくれたそうだ。“同じような子を見たことがあるけれども、〇〇町の歯医者さんに行ってみるといいよ”と。「歯医者」?目が腫れてるのに歯医者?母親の頭は混乱するばかりだったが、藁にも縋る思いでその歯科医院を訪ねたのだそうだ。

オイラを見た先生はすぐに手術が必要だと告げ、その日に取り掛かった。何でも、まだ歯が生え揃っていない時期にオモチャを齧っていて、歯茎から菌が入り、眼球の裏を侵食していったらしい。目尻を切開しガーゼを巻いた棒を眼球の裏側に挿入すると、大量の膿が出てきたそうだ。

母親は術後に、先生から視力に障害が残る可能性があること、1,000人に1人くらいの病気であること、そしてもう少し遅ければ命はなかったかもしれないと告げられたそうだ。歯医者さんが外科手術!?もの心ついたころに話を聞かされたオイラは驚くしかなかったが、この先生がいなかったら、いまのオイラはこの世にはいなかったのかもと思うと感謝しかない。本当にありがとう、S先生。

昭和30年代初頭、オイラの「病気のデパート」人生は、こうしてへろへろ、ヒョロヒョロと始まった。

▼PR