元妻実家での苦痛の生活。オイラが呆れかえったのは、雨が続くある日のことだった。夜9時頃に帰宅して、いつものように洗濯機に洋服を入れようと広間を通ると、先週干して取り込めなかったシャツが何枚も部屋の中にぶら下がっている。
“なんで?放置??”なんと、この家にはアイロンがないのだ。なるほど、元妻の父親のシャツ姿を見たことがないのは、そのせいか…。
冷ややっこの上で踊るシロアリ、油まみれの換気扇、天井をはい回る直径10センチ程の巨大なクモ、無数のG…。苦痛のタネがまた一つ増えていく。
翌朝、一家全員の洗濯を終え、家中に掃除機をかける。義父と義母の部屋には半分に畳んだ万年床がある。畳には人型がクッキリ二人分ついていて、踏むと少し沈み込む。天井は例のクモの巣だらけだ。
やっとひと息つけるのは昼前。子供は保育園、元妻もようやくオイラが勧めた病院で勤務するようになったから、少しばかり持てる自分の時間だ。父親は朝からパチンコや賭け麻雀に忙しい。
“結婚ってなんなんだろう?”。オイラは稼ぎを運んできて、家政婦代わりに使える便利なだけの存在なのか?家に帰ってくるたびに暗澹たる思いになった。ここから抜け出さなくては。早く、早く、早く…。
離婚を決定的にしたひと言は、“本当にあなたの子だと思ってるの?”そして元妻に刺さったのは、“何度言ってもわからない奴は猿以下だ!”だったそうだ。
もう別居しかないか…。それでもまだ一縷の望みをかけて、オイラは家裁へ調停を申し出た。
ついに別居が決まり、家を出る最後の日、オイラは子供に告げた。“お父さんはここからいなくなる。でも、お前のことが嫌いでそうするんじゃない。それだけは覚えておくんだよ”と。
まだ小さいから、多分意味はわからないだろう。それでもいい、とにかく本心だけは伝えようと思った。
実家のある地域は、離婚率が異常に高い。で、離婚した片親は、ほとんど死んだことにされていた。それだけは絶対に許せなかったから、オイラは意地でも毎週子供に会おうと通うことにした。
朝10時、電話をかけると子供が出る。そして家から3~4分の浜辺で待ち合わせる。それが決まりだった。
離婚の苦労は、結婚の比じゃないよ⑤へ続く…
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